第9章: センサー・通信・その他 — CIS と RF
スマホで撮った写真が綺麗だ、と言うとき、画質の 8 割を決めているのはレンズ後ろの イメージセンサー だ。
そしてその世界シェア 1 位は、依然としてソニー。
5G の電波を捌くのも、AirPods が声を拾うのも、クルマが障害物を見るのも、それぞれ専門の半導体の仕事である。
種類編の最後は、第 5 章で「第 5 の島々」と呼んだこのグループを回る。
9.1 「見る・聴く・伝える」の半導体
ここまでの章で扱った半導体は、計算(ロジック)、記憶(メモリ)、電源・電力(アナログ・パワー)が中心だった。
ところが、現実世界とコンピュータをつなぐ役割 を担う半導体がもう一群いる:
- 見る → CIS(イメージセンサー)
- 聴く → マイク用 MEMS
- 伝える → RF(無線)半導体
- 感じる → 加速度・ジャイロなど各種 MEMS
- 見せる → ディスプレイドライバ IC(DDI)
技術的にはアナログ半導体の延長線上にあるが、扱う物理現象が独特で、ニュースでの存在感も大きいので独立に見ておく価値がある。
9.2 CIS(イメージセンサー)── 光を数字に変える
CIS(CMOS Image Sensor) は、レンズから入った光を電気信号に変える半導体だ。 スマホのカメラ、車載カメラ、防犯カメラ、医療用内視鏡 ── 画像が映る機器の中心には必ず CIS がいる。
仕組みは第 2 章のフォトダイオードの応用である。 微小なフォトダイオードを画素として平面に並べ、各画素で受けた光量を電圧に変換し、ADC でデジタル値として読み出す。
現代のスマホ用 CIS は 1 億〜2 億画素 ある。 つまり 1 個のチップに 1 億〜2 億個のフォトダイオード + 読み出し回路 が並んでいる、ということだ。
呼び名の正体も押さえておきたい。 CIS の C は、第 4 章で見た CMOS。世界中のデジタル集積回路を支配している CMOS プロセスで作られたイメージセンサー、というだけの話で、特別な物質を使うわけではない。
9.3 なぜソニーが世界一なのか
CIS 市場の世界シェア(2024 年、金額ベース):
| 会社 | シェア | 主な用途 |
|---|---|---|
| ソニー (Sony Semiconductor Solutions) | 約 50% | スマホ、車載、産業 |
| Samsung | 約 19% | 自社スマホ + 中国系 |
| OmniVision | 約 11% | 中国系・米 |
| GalaxyCore | 約 7% | 廉価帯 |
| SK hynix | 約 5% | 廉価帯 |
ソニーの強みは、技術と顧客関係の両方にある。
- 裏面照射 (BSI) センサー を 2008 年に世界初で量産
- 積層型センサー を 2012 年に商用化(CIS + ロジック + DRAM を縦に積む)
- iPhone のメインセンサーをほぼ独占供給
- 車載 CIS でも急成長中
ソニーの優位は、Apple との長期の関係 と、積層型センサーを量産できる工場 の両輪で成り立っている。
熊本県・長崎県に巨大なセンサー工場を持ち、隣接する TSMC 熊本工場とも地理的に近い。
日本の半導体産業の数少ない希望のひとつが、この CIS 領域である。
9.4 RF 半導体 ── 電波を扱う繊細な技術
RF(Radio Frequency)半導体 は、無線通信の電波を送受信する半導体の総称だ。 ニュースで見かける「RF フロントエンド」「PA(パワーアンプ)」「LNA(低雑音アンプ)」「フィルタ」「スイッチ」も、すべてこの分類に入る。
スマホ 1 台には 10〜20 個 の RF 半導体が入っている:
- セルラー通信(4G LTE / 5G)の送受信
- Wi-Fi、Bluetooth、UWB
- GPS / GNSS(測位衛星電波の受信)
それぞれの規格・周波数帯ごとに、PA(送信アンプ)、LNA(受信アンプ)、フィルタ、スイッチが要る。 5G では低周波(sub-6GHz)と高周波(ミリ波)の両方を扱うため、構成が一段複雑になった。
主要プレイヤー:
| 会社 | 本社 | 強み |
|---|---|---|
| Qualcomm | 米 | モデム + RF(iPhone にも供給) |
| Skyworks | 米 | PA、フィルタ |
| Qorvo | 米 | PA、フィルタ |
| Broadcom | 米 | Wi-Fi / BT + RF |
| MediaTek | 台 | モデム + RF(廉価帯) |
| 村田製作所 | 日 | SAW フィルタモジュール |
RF 半導体は、GaAs(ガリウムヒ素)や GaN などシリコン以外の材料が多用される領域でもある。 シリコンより高速・低ノイズで動かしやすいため。
9.5 ディスプレイドライバと MEMS
CIS と RF 以外で、第 5 の島々として押さえておきたいのが DDI と MEMS だ。
ディスプレイドライバ IC(DDI) はスマホやテレビの液晶・OLED 画面を駆動する半導体。 主要プレイヤーは韓・台に集中する:Samsung LSI、LX Semicon(韓)、Novatek(台)。 8K テレビや可変リフレッシュレート OLED など、画面側が進化するほど DDI も複雑化する。
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems) は、半導体プロセスで作る微小な機械構造のデバイス群。「半導体」と「機械」のあいだの子のような存在で、用途はかなり広い:
- 加速度センサー(スマホの傾き検出)
- ジャイロセンサー(手ブレ補正、姿勢検出)
- 圧力センサー、マイク(スマホ・AirPods のマイクは MEMS)
- インクジェットプリンタヘッド、DLP プロジェクタの可動ミラー
主役は Bosch、STMicro、InvenSense(TDK)、Knowles など。
9.6 車載で集まる ── EV 1 台 1,500 個の中身
第 5 章で「EV 1 台には半導体が 1,500 個以上」と書いた。 その中身を内訳ベースで見ると、本章のセンサー・通信半導体がかなりの割合を占めていることが分かる。
現代のクルマには:
- 車載カメラ用 CIS: 8〜12 個(前方、後方、サイド、室内)
- 車載レーダー(24GHz / 77GHz): 数個(衝突防止、ACC)
- LiDAR: 半導体レーザー + 受光素子
- 超音波センサー: 駐車支援
- 車両通信(V2X): 信号機・他車との通信用 RF
これらが ADAS(先進運転支援)や自動運転の目と耳 になる。 レベル 2 の現行車で半導体総額は約 800 ドル / 台、レベル 4 自動運転になると 1,500 ドル超 と見られる。
クルマは「動くスマホ + 工場」のような存在になりつつある。
ロジック・メモリ・アナログ・パワー・センサー ── 4 大陸 + 第 5 の島々の住人が全部集まる場所で、車載半導体だけで年間 1,000 億ドル超のマーケットを形成している。
9.7 オプトエレクトロニクス(光と電気の境目)
最後に オプトエレクトロニクス、光と電気の間を行き来する半導体。
第 2 章で見たとおり、LED は青色を中村修二らが GaN で実現し、白色照明を可能にしたデバイスだ。 本章で押さえるのは、その兄弟分の 半導体レーザー である。
- 半導体レーザー → 光通信、Blu-ray、車載 LiDAR
- VCSEL(面発光レーザー) → iPhone の Face ID、データセンター内の光接続
データセンターでは今後、ボード上で銅配線を光に置き換える動きが進む。 この「光と電気を一緒のパッケージに詰める」未来側の話は 第 16 章「これから」 でまとめて扱う。
9.8 この章の振り返り
- 第 5 の島々 ── CIS、RF、MEMS、DDI、オプトエレクトロニクス ── をまとめて見渡した
- CIS は CMOS プロセスで作るイメージセンサー。ソニーが世界 1 位(約 50%)
- RF 半導体 は無線通信の心臓部。Qualcomm、Skyworks、Qorvo、Broadcom、村田が主役
- MEMS は半導体プロセスで作る微小機械(マイク、加速度、ジャイロ、圧力)
- 車載 ではこれらが全部集まり、ADAS と自動運転の目と耳になる
- オプトエレクトロニクス(LED、半導体レーザー、VCSEL)も独立カテゴリ
この章で読めるようになるニュース
- 「ソニー、車載イメージセンサーで世界シェア拡大」
→ スマホ CIS 世界 1 位が車載に攻勢、と読める - 「Apple、iPhone カメラセンサーを Samsung と二社購買に」
→ ソニーがほぼ独占していた構図、という前提が頭に入っている - 「米国、対中 GaN 規制を検討」
→ GaN は本書で 2 回登場した素材だ。第 8 章の 次世代パワー半導体、本章の RF 半導体、両方で使う重要素材 ── という背景が読み取れる - 「村田製作所、5G 向け SAW フィルタ供給拡大」
→ スマホの RF フロントエンド部品の話、と即座に分類できる
ここまでで 種類編 は終了。 4 大陸 + 第 5 の島々の地図が、頭の中に描けたはずだ。
次章からは 製造編。 「2nm」「EUV」「チップレット」── ニュースで頻出するキーワードたちの中身を、次の 3 章で解き明かしていく。