Chapter 13

第13章: 水平分業の地図 — ファブレス・ファウンドリー・IDM・OSAT

「NVIDIA は半導体メーカー」「TSMC も半導体メーカー」── どちらも正しい。
だが、両者がやっていることは全く違う

NVIDIA は 設計だけ をする。工場は持たない。
TSMC は 製造だけ をする。自社製品は持たない。

この 役割の分担 が、現代の半導体産業を動かしている基本構造だ。
本章では、ニュースで聞く企業名を一枚の地図に置き直す。

13.1 そもそも何を分業しているのか

半導体ができるまでには、おおまかに 4 つの段階がある。

  1. 設計 ── 何を作るかを決め、回路を描く
  2. 前工程 (製造) ── ウェハー上にトランジスタを焼き付ける
  3. 後工程 (組立・テスト) ── ダイを切り出し、パッケージに収め、テストする
  4. 販売

1980 年代までは、これを 1 社で全部やる のが当然だった。 ところが今は、各段階を別々の会社が担うのが主流になっている。

この変化を駆動した原因は単純で、前工程の設備投資が爆発した ことに尽きる。 最先端ファブ 1 棟の建設費は 200 億ドル超。これを毎世代更新できる会社が、世界に数社しか残らなかった。

13.2 4 つのビジネスモデル

役割をどこまでやるかで、4 つのモデルが生まれた。

モデルやること代表例
IDM (Integrated Device Manufacturer)設計 + 製造 + 後工程 + 販売 (全部)Intel、Samsung、Micron、TI、Infineon
ファブレス (Fabless)設計だけNVIDIA、AMD、Apple、Qualcomm、MediaTek
ファウンドリー (Foundry)前工程だけ (他社設計を受託)TSMC、Samsung Foundry、GlobalFoundries、SMIC
OSAT (Outsourced Semiconductor Assembly & Test)後工程だけASE、Amkor、JCET、Powertech

水平分業 = 各社が一段に特化する構造
ファブレスは設計に、ファウンドリーは前工程に、OSAT は後工程に集中する。
これに対し、IDM は 垂直統合 = 全部自社でやる旧来モデル。

ニュースで会社名を聞いたら、まず どのモデルか を当てると話の見通しが立つ。

ファブレス設計だけNVIDIA, AMD, Apple,Qualcomm, MediaTekファウンドリー前工程だけTSMC, Samsung Foundry,GlobalFoundries, SMICOSAT後工程だけASE, Amkor, JCET,PowertechIDM(垂直統合:設計 + 前工程 + 後工程)Intel, Samsung(メモリ + ロジック + ファウンドリー), SK hynix,Micron, Kioxia, TI, Infineon, ST, Renesas, Sony Semi最先端ロジックの IDM は Intel と Samsung だけメモリ・アナログ・パワーは IDM が依然主流設計委託後工程委託
図 13.1 — 半導体産業の水平分業構造。ファブレス → ファウンドリー → OSAT という流れと、それを内製する IDM。

13.3 IDM ── 1980 年代までの「常識」

垂直統合 (IDM) が当然だった理由はシンプルだ。 自分の工場でしか、自分のチップは作れなかった。 製造装置・材料・プロセス技術が、各社で独自仕様だった時代である。

代表的な IDM:

IDM当時の主力
IntelCPU
Texas Instruments各種
NEC、東芝、日立、三菱DRAM、ロジック
Philips、Siemens各種

このうち、最先端ロジックを自社製造し続けたのは Intel と Samsung だけ。 他は撤退するか、ファウンドリーに委託するか、アナログ・パワー領域に転進した。

13.4 ファブレスとファウンドリーの登場 ── モリス・チャンの一手

1980 年代後半、「工場を持たず、設計だけする会社」 = ファブレス が現れる。 Qualcomm、Xilinx、NVIDIA、Broadcom など。

これが成立するには、製造を引き受けてくれる相手 が要る。 その役を引き受けたのが、1987 年に台湾で創業した TSMC だった。

創業者 モリス・チャン は、TI で 25 年の経験を積み、56 歳で台湾政府の招きに応じて TSMC を立ち上げた。
彼の賭けは「設計と製造を分業すれば、設計だけの会社が次々生まれる」というもの。
当時誰も信じなかったが、30 年後、世界の最先端ロジックの 9 割が TSMC で作られるようになった。

ファウンドリー業界の現在 (2024 年、ロジック半導体ファウンドリー市場シェア):

会社本社シェア
TSMC台湾約 62%
Samsung Foundry約 11%
SMIC約 6%
UMC台湾約 5%
GlobalFoundries約 5%
その他約 11%

最先端ロジック (5nm 以下) に限ると TSMC のシェアは 90% 超。 Samsung が一部、Intel Foundry が新規参入を狙う、というのが現状だ。

13.5 なぜ TSMC が独走したのか

TSMC の強さは、ひとつの単純な事実 に集約される。

TSMC は 「設計者の最大の友」 であることに 30 年間徹底した。

  • 顧客の設計と競合する自社製品を持たない
  • 最先端プロセスを最も早く提供する
  • 顧客機密を絶対に漏らさない
  • 顧客に合わせてプロセスをカスタマイズ (Apple 専用ノード等)

この「裏切らない契約」が信頼の正のフィードバックを回した。

加えて、毎年 400 億ドル超の設備投資 を続けてきたこと。 これに追いつけるのは世界で Samsung と Intel くらいしかいない。

TSMC は単なる「製造会社」ではなく、ASML、TEL、AMAT、Lam、KLA、Synopsys、Cadence などのエコシステム企業と二人三脚で技術を進める 最先端プロセスの研究開発機関 でもある。

13.6 OSAT ── 後工程に特化する

ファウンドリーで作られたウェハーは、OSAT (Outsourced Semiconductor Assembly & Test) に渡される。 ダイシング・パッケージング・テストを請け負う後工程専業企業だ。

主要 OSAT:

会社本社
ASE Technology台湾
Amkor Technology
JCET
Powertech (PTI)台湾
Tongfu Microelectronics

ただし、AI GPU 向けの先端パッケージング (CoWoS 等) は TSMC が自社で抱える ケースが多い。 OSAT の主戦場は、伝統的なワイヤボンディングや汎用品の組立・テストにある。

13.7 ファブレスの巨人たち

現在のファブレス上位は、すべて時価総額世界トップクラスの企業。

会社2024 年売上規模強み
NVIDIA約 1,300 億ドルAI GPU 独占
Broadcom約 500 億ドルネットワーク、AI ASIC
Qualcomm約 360 億ドルスマホモデム、RF
AMD約 230 億ドルCPU + GPU + AI
MediaTek約 160 億ドルスマホ SoC
Apple(自社使用)A / M シリーズ SoC

Apple は 自社製品にしか積まない 異色のファブレス。それでも年間出荷量は世界最大級。 全員、最先端ノードでは TSMC に依存 している。

13.8 Samsung と Intel ── 残った IDM のかたち

最後に、最先端ロジックの IDM として残った 2 社を整理する。

Samsung ── メモリ IDM + ロジック IDM + Foundry の三層

Samsung は事業構造が独特で、3 つの顔 を持つ。

  1. メモリ IDM ── DRAM 世界 1 位、NAND 世界 1 位。自社設計・自社製造・自社販売
  2. ロジック IDM ── Galaxy 向け Exynos SoC を自社設計・自社製造
  3. Foundry 部門 (Samsung Foundry) ── 他社の設計を製造する受託事業

この三層を 1 社で抱える構造は世界唯一。 ただし顧客 (ファブレス) からは、「自社で Exynos を作っている会社に、競合する設計を預けるのは不安」という葛藤を生み続けている。

Intel ── IDM 2.0 の挑戦

Intel は最後に残ったロジック半導体 IDM の代表だった。 だが 2010 年代以降、製造プロセス開発でつまずき、TSMC に 3 〜 4 世代 の差をつけられた。

そこで Intel は 「IDM 2.0」 と呼ぶ転換戦略を発表 (2021 年):

2024 年に Intel Foundry を子会社化し、外部顧客の獲得を急いでいる。

業界の本音は、Intel Foundry が立ち上がるかは、まだ誰にも分からない、というところ。
顧客信頼の蓄積には数十年かかる。Apple や NVIDIA が Intel に発注する日が来るのか、答えは数年後に出る。

13.9 SMIC・AI ファブレス・ラピダス ── 新しい動き

最後に、地図に書き加えるべき新しい動きを 3 つ。

SMIC (中国): 中国最大のファウンドリー。 米国の制裁で EUV を入手できないが、ArF 液浸 + マルチパターニングで 7nm 級を量産 していると見られる。 Huawei Mate 60 シリーズに搭載された Kirin 9000S が SMIC 製と判明し (2023 年)、業界に衝撃が走った。

AI ファブレスの台頭: Cerebras、Groq、SambaNova、Tenstorrent、Etched、d-Matrix など、AI 専用ファブレスが急増。 全員、TSMC または Samsung Foundry を頼る。

ラピダス (Rapidus、日本): 2022 年設立。日本初の 純粋ファウンドリーモデル で 2nm を狙う。 詳細は第 15 章で扱う。

13.10 この章の振り返り

この章で読めるようになるニュース

次章は、装置と材料 の世界へ。 ASML、TEL、AMAT、Lam、KLA、信越化学 ── 「チップを作る道具を作る側」の物語であり、ここで日本産業の本当の強みが見えてくる。