Chapter 5

第5章: 半導体の分類地図 — ロジック・メモリ・アナログ・パワー

「半導体」とニュースで聞いても、それが指しているものは時と場合で全然違う。

  • NVIDIA の GPU は半導体だが、サムスンの DRAM も半導体
  • ソニーの イメージセンサー も、ルネサスの 車載パワー半導体 も半導体
  • スマホの中の SoC も、無線通信を担う RF チップ も半導体

ぜんぶ「半導体」と呼ばれている。
だから読み解くには、まず 地図 が要る。

5.1 なぜ「種類」が多すぎるのか

ここまでの 4 章で、半導体の 共通の原理(バンドギャップ、ドーピング、トランジスタ、CMOS)を見てきた。 ところが、現実の半導体産業を眺めると、製品の種類は数えきれない。

それはなぜか。

半導体は 「電子の流れを操る」 という共通の土台の上で、目的ごとに専門化が進んだ からだ。

  • 計算する → ロジック半導体
  • 覚えておく → メモリ半導体
  • アナログ信号を扱う → アナログ半導体
  • 大電力を切替える → パワー半導体
  • 光を電気にする → イメージセンサー
  • 電波を扱う → RF 半導体

それぞれが「最適な構造・最適なプロセス・最適なサイズ」を持つ。 だから種類が多い ── というより、多くなるべくしてなった

5.2 4つの大陸 — ロジック / メモリ / アナログ / パワー

半導体の世界を、ニュースを読む目的にとって過不足ないレベルで分けると、おおむね 4 つの大陸になる。

① ロジック半導体(計算する)・CPU (Intel、AMD、Apple)・GPU (NVIDIA、AMD)・SoC (Apple Silicon、Qualcomm、MediaTek)・AIアクセラレータ/NPU/TPU・FPGA/カスタムASIC主役:TSMC, Samsung, Intel先端プロセス:2nm 〜 7nm② メモリ半導体(覚えておく)・DRAM (主記憶、揮発性)・NAND フラッシュ (SSD、不揮発性)・SRAM (CPU 内のキャッシュ)・HBM (AI 用、3D 積層 DRAM)・ROM/EEPROM/新規メモリ主役:Samsung, SK hynix, Micron, Kioxiaプロセス:10nm 級 + 3D 積層③ アナログ半導体(連続信号を扱う)・電源管理 IC(PMIC)・オペアンプ、AD/DA コンバータ・RF(無線通信、5G、Wi-Fi)・センサー IC(温度、加速度、磁気)主役:TI, Analog Devices, Infineonプロセス:成熟ノード(180nm〜45nm)④ パワー半導体(大電力を切替える)・MOSFET (Si)・IGBT (高電圧用)・SiC / GaN (次世代)・ダイオード、サイリスタ主役:Infineon, ON Semi, ローム, ルネサスプロセス:マイクロメートル級
図 5.1 — 半導体の 4 大陸。次章以降、それぞれの大陸を訪ねていく。

各大陸は、得意な仕事が違うだけでなく、使うプロセス世代主要プレイヤーも違う。 だから、ニュースで「半導体」と聞いた瞬間に、それがどの大陸の話か判定できるようになると、急に話が読めるようになる。

5.3 センサー・通信・ディスプレイ ── 第5の島々

4 大陸の他に、独立した島々もある。これらはアナログ半導体の延長と見なされることもあるが、ニュース上の存在感が大きいので別立てしておく。

代表
イメージセンサー (CIS)ソニーが世界一。スマホ・車載カメラ・産業用
RF 半導体スマホの 5G/Wi-Fi モデムやアンテナ周り。Qualcomm、Skyworks、Qorvo
ディスプレイドライバ液晶・OLED の駆動。Samsung、Novatek
MEMS加速度センサー、マイク、ジャイロ

これらは第 9 章でまとめて扱う。

5.4 デジタルとアナログという根本の対比

4 大陸を別の切り口で分けると、デジタル半導体アナログ半導体 に分かれる。

デジタルアナログ
扱う信号0 と 1 (離散)連続値(電圧そのもの)
主役ロジック、メモリアナログ、パワー、センサー
微細化との関係微細化で性能が上がる必ずしも微細化で良くなるわけではない
設計の難しさ規模との戦い物理との戦い

ニュースで「最先端プロセス」「2nm 量産」と聞くのは デジタル側 の話だ。 アナログ・パワー半導体は、無理に微細化しても性能は上がらない(むしろノイズや耐圧の問題で悪化する)ことが多いため、成熟プロセス(180nm〜45nm くらい)が現役で使われ続けている。

「半導体の遅れ」を語るときは、どちらの話かを区別する必要がある。 最先端プロセスでは TSMC が独走しているが、アナログ・パワーは別の競争軸で、欧州・日本企業がいまも強い。

5.5 用途で見るか、構造で見るか

別の分類軸として、用途で分けることもできる。これはマーケット側の人がよく使う切り口だ。

用途別カテゴリ含まれるもの
スマホ向け半導体アプリケーション SoC、モデム、メモリ、CIS、PMIC
データセンター向けサーバ CPU、GPU、HBM、NIC、ストレージ
車載半導体MCU、SoC、パワー半導体、CIS、レーダー
産業用半導体パワー半導体、MCU、FPGA、センサー
家電・民生MCU、メモリ、ディスプレイドライバ

例えば 1 台の現代の EV には、1,500 個以上 の半導体が積まれている。種類はロジック、メモリ、アナログ、パワー、センサー ── つまり 4 大陸ぜんぶの寄せ集めになる。

5.6 半導体マーケットの規模感

最後にスケール感だけ。世界の半導体市場は 年間 5000 〜 6000 億ドル規模 (2024年時点)、産業の総体は約 100 兆円弱になる。 内訳のおおざっぱな比率を、頭の片隅に置いておくとニュースが読みやすい。

大陸売上シェア(目安)
ロジック半導体約 30%
メモリ半導体約 25%(DRAM/NAND の好不況で大きく振れる)
アナログ半導体約 13%
マイクロコントローラ / MPU約 10%
パワー / ディスクリート約 10%
センサー / その他約 12%

注意点:メモリは価格変動が激しい。DRAM/NAND は典型的なコモディティなので、好況期と不況期で売上が 2 倍違うこともある。

5.7 これからの章マップ

ここまでで、半導体の地図が頭の中に描けたはず。 次章以降、各大陸を旅していく。

ここから 4 章は、章ごとに別の世界を覗くような構成になる。
順に読んでもいいし、気になる大陸から先に行ってもいい。
迷ったら、また図 5.1 に戻って自分の位置を確認すれば良い。

5.8 この章の振り返り

この章で読めるようになるニュース

次章では、1 つ目の大陸 ── ロジック半導体 に踏み込む。 NVIDIA、Apple Silicon、x86 vs Arm、AI アクセラレータの世界へ。