付録A: 主要エージェント比較表
本書を読み終えたあなたは、もう「Claude Code は何ができますか?」を一覧で覚える必要はない。 代わりに、本書で扱った観点で各プロダクトを見比べる地図 だけがあればいい。
この付録は、その地図そのものだ。
Claude Code、Cursor、Codex CLI、Devin、Aider、OpenHands ── 2026 年現在の主要なコーディングエージェントを、本書の用語で 横並びに 比較する。 プロダクトの細部は来年には変わっているかもしれないが、ここで扱う 比較軸 はもっと長く生き残る。
A.1 そもそも、なぜ比較表が要るのか
序章で約束した通り、本書は プロダクトの個別解説書ではない。 それでも一度は、6 つのプロダクトを横並びに置く価値がある。理由は二つ。
- ひとつ目: 共通点に気づくため。表に並べると、6 つすべてが本書で扱った 同じ骨格 を持っていることが視覚的に分かる
- ふたつ目: 設計判断の差を見るため。同じ骨格でも、各社が「ここはこう設計する」と決めた 判断の癖 が表に現れる
「ループの設計判断はこういうメニューで構成されている」── そう読み解くための一枚絵が、この比較表だ。
A.2 比較する 6 つのプロダクト
並べるのは、2024〜2026 年に話題の中心にいた 6 つ。 それぞれを一行で紹介しておく。
| プロダクト | 提供元 | 一言で |
|---|---|---|
| Claude Code | Anthropic | ターミナルで動く Anthropic 公式 CLI エージェント |
| Cursor | Anysphere | エディタ一体型のエージェント。IDE がそのまま舞台 |
| Codex CLI | OpenAI | ターミナルで動く OpenAI 公式 CLI エージェント |
| Devin | Cognition | クラウドで自律的に長時間動くフルマネージドエージェント |
| Aider | OSS | git と密結合した、ターミナル向け OSS エージェント |
| OpenHands | OSS(旧 OpenDevin) | Docker サンドボックスで動く OSS エージェントフレームワーク |
商用 4 つ(Claude Code / Cursor / Codex CLI / Devin)と OSS 2 つ(Aider / OpenHands)の取り合わせになっている。
A.3 主要観点の比較表
本書で扱った観点を縦軸に、6 プロダクトを横軸に取って一望する。 表が大きいので、二段に分けた。
A.3.1 基本構成
| 観点 | Claude Code | Cursor | Codex CLI | Devin | Aider | OpenHands |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 主な実行環境 | ローカル CLI | ローカル IDE(VS Code 派生) | ローカル CLI | クラウド(マネージド) | ローカル CLI | ローカル / クラウド(Docker 必須) |
| 提供形態 | 公式商用 | 公式商用 | 公式商用 | 公式商用 SaaS | OSS(Apache 2.0) | OSS(MIT) |
| LLM ベース | Claude(自社) | 複数選択(Claude / GPT / 自社モデル) | GPT / o 系(自社) | Claude / GPT(選択) | 任意(モデル非依存) | 任意(モデル非依存) |
| 想定スパン | 数分〜数十分 | 数分が中心、Agent モードで長め | 数分〜数十分 | 数時間〜半日 | 数分 | 数分〜数時間 |
| 得意な領域 | 既存リポジトリでの編集・テスト | エディタでの対話・補完・編集 | 既存リポジトリでの編集・テスト | 自律的タスク受託 | ファイル単位の精密編集 | サンドボックス内の自律実行 |
A.3.2 ループ設計
| 観点 | Claude Code | Cursor | Codex CLI | Devin | Aider | OpenHands |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 道具セットの傾向 | 汎用(Bash / Read / Edit / Grep / Web 等)+ 拡張 | エディタ統合(編集 / 差分 / 検索)+ ターミナル | 汎用(Shell / Edit / Search 等) | 汎用 + ブラウザ + 仮想 PC | 限定(git / file 編集中心) | 汎用 + ブラウザ + GUI(Computer Use) |
| 停止条件の重心 | ① 自然停止 + ② 内部上限 + ③ Esc / 承認(③ が厚い) | ① + 編集ごとの差分 Accept(③ が UI 主役) | ① + ② + 承認ポリシー設定で予防 | ① + ② が中心、③ は Slack 等で非同期に飛ぶ | コミット単位で都度停止(③ 重視の最小ループ) | ① + UI 承認、長時間自走時は ② が効く |
| HITL の入れ方 | Esc 割り込み / Tool 単位の許可制(permissions) / 計画段階の承認 | 差分プレビュー → Accept/Reject、UI 上で承認 | approval ポリシー、設定駆動の許可リスト | 専用 UI 経由のみ、Slack 質問を待つ非同期型 | 編集前に y/n、git commit がチェックポイント | UI で逐次承認、サンドボックス前提で緩めも可 |
| サブエージェント機構 | /agents + Task ツールで明示的に呼べる | あり(Background Agent、Composer の分業) | あり(タスク委任、background mode) | 内部で計画→実行→検証の役割分担を抱える | 弱い(メインループ一本) | あり(マルチエージェント構成可) |
| 計画モード | Plan mode(読み専用で計画のみ)(第9章) | あり(Composer の Plan) | あり(plan モード) | 内部に planner 相当 | なし(最小ループ志向) | あり(planner / coder の分業設定) |
| 並列ツール呼び出し | 標準で積極活用 | あり、編集系は順序保護 | あり(parallel_tool_calls 設定で切替可) | あり、長時間タスクで効く | 限定的(コミット単位の直列志向) | あり、構成次第 |
A.3.3 文脈と拡張
| 観点 | Claude Code | Cursor | Codex CLI | Devin | Aider | OpenHands |
|---|---|---|---|---|---|---|
| プロジェクト設定ファイル | CLAUDE.md / .claude/ | .cursorrules / .cursor/rules | AGENTS.md / .codex/ | リポ内 README + 設定 UI | .aider.conf.yml / CONVENTIONS.md | リポ内 README + microagents |
| メモリ層 | session + project + global の 3 階層 | session + project rules | session + project + global | クラウド永続セッション | session 中心 | session + repo-level memory |
| MCP 対応 | あり(公式) | あり | あり | 限定的 | あり(コミュニティ) | あり |
| プラグイン / 拡張 | Skills / Plugins / hooks / sub-agents | Cursor Rules / Extensions | Plugins / hooks(v ≥ 0.20) | 社内向け統合中心 | コマンド拡張、/load | microagents、ツール拡張 |
| ライセンス・モデル選択 | 商用 / Claude 固定 | 商用 / モデル選択可 | 商用 / OpenAI 系固定 | 商用 SaaS / モデル非公開 | OSS / モデル自由 | OSS / モデル自由 |
ここまでが、本書で扱った骨格を そのまま観点に落とした比較 だ。
A.4 どのプロダクトが「同じ骨格」を持っているか
表をじっくり眺めると、面白いことに気づく。
6 プロダクトすべてが、本書で扱った骨格 ── LLM + 道具 + ハーネス、think → act → observe、停止条件、コンテキストファイル、サブエージェント、HITL ── の 全構成要素を持っている。
違うのは「どこにどれだけ力を入れたか」の重心だけだ。
- Claude Code は 道具と拡張機構 に重心
- Cursor は エディタ統合と差分 UI に重心
- Devin は 長時間自走と計画 に重心
- Aider は git と最小ループ に重心
- OpenHands は サンドボックスとマルチエージェント に重心
- Codex CLI は CLI 体験の素直さ に重心
骨格は同じで、肉付けが違う。これが本書を通じて見てきた構図そのものだ。
A.5 設計哲学を一言で
最後に、各プロダクトの 設計哲学 を 2〜3 行で言葉にしておく。 「このプロダクトは、ループのどこを尖らせたのか」 ── そこを掴めば、来年新機能が出ても読み解ける。
Claude Code
「拡張機構ですべてを置き換え可能にする」。
Bash や Read のような最小限の道具を厳選しつつ、Skills / Plugins / hooks / sub-agents / MCP で 後から肉付けできる骨格 に振り切った。
停止条件の重心は ③ 人間介入(Esc と Tool 単位の permissions)に置き、サブエージェントは /agents + Task ツールで明示的に呼ぶ。CLI でしっぽが軽く、巨大化を拒否する設計。
Cursor
「IDE 体験を壊さずにループを差し込む」。 ターミナル CLI ではなく、エディタの編集・補完・差分という 既存のワークフロー にエージェントを溶かし込んだ。Accept / Reject の差分 UI が HITL の主役 で、停止判断も「次の差分を受け入れるか」というユーザーの一拍に乗っている。ユーザーは「いつもどおりコードを書く」延長で AI と協業できる。
Codex CLI
「OpenAI 公式の素直な CLI」。 Claude Code の対抗馬として、ターミナルで動く OpenAI 系エージェントを純度高く提供する。approval ポリシーで承認導線を 設定駆動 にし、サブエージェントは background mode で呼ぶ。本書の骨格通りに過度な独自性を避けて素直に組み上げる方針。
Devin
「人間に話しかけてくる同僚エージェント」。 タスクを渡すと、自分で計画を立て、自走し、必要なら Slack で質問してくる。長時間タスクの先頭走者で、ハーネス側に planner / executor / verifier 相当の分業を内蔵する。 停止条件は ① 自然停止 + ② ステップ予算 が中心で、③ HITL は「常時張り付き」ではなく「非同期に質問が飛んでくる」モデルに振り切った。
Aider
「git とペアプロするための最小ループ」。
編集はすべて git の差分として扱い、コミット単位でループを進める。停止単位は コミット、HITL は 編集ごとの y/n。Plan mode やサブエージェントを意図的に持たず、最小構成のループに執着する OSS 文化を体現したエージェント。本書の最小三角形を、もっとも素直に実装している例と言える。
OpenHands
「サンドボックスを前提にしたフレームワーク」。 Docker 上の隔離環境を必須にし、その中で GUI 操作も含めた自律実行 を可能にする。サンドボックスが強い分、destructive な道具も比較的開放でき、マルチエージェント構成や microagents で サブエージェント機構 を自由に組み替えられる。研究/実験向けの色合いが強い。
A.6 比較表の使い方
最後に、この付録の正しい読み方を置いて締めにする。
実務メモこの表を 「どれが優れているか」を決めるための表 として読むと、間違える。 正解は タスクとチームとセキュリティ要件によって毎回変わる。
代わりに、この表は次の使い方をしてほしい:
- 自分が使っているプロダクトが、本書の骨格のどこに重心を置いているか確認する
- 他のプロダクトを試すときに「自分のプロダクトと違う設計判断はどこか」を読み解く
- ニュースで「○○ がこんな機能を追加した」と読んだとき、それが 骨格のどの部分の話か を地図に置く
私自身、業務では Claude Code を中心に、用途に応じて Cursor と Codex CLI を行き来している。 6 つ全部を本気で使っているわけではない。
それでも、骨格が同じだと分かっていれば 乗り換えの学習コストは思ったより低い。
コマンド名と UI を覚え直せば、あとは「あぁ、Claude Code でいう /agents がこっちでは Background Agent か」と読み替えていける。
この付録が、そういう 読み替えの地図 として使えれば、書いた甲斐があった。
各プロダクトの細部は、それぞれの公式ドキュメントを参照してほしい。 だが「で、結局これは何の話なのか」を 骨格に当てて読む癖 さえ身についていれば、もう新しいエージェントが出てきても、あなたは置いていかれない。
A.7 この付録の使い続け方
本書をここまで読んだあなたは、もう各章を頭から読み直す必要はない。 代わりに、本書の各章は「(付録A 参照)」という形で この付録に道を譲っている ── プロダクトごとの並列リストが本文に出てくるたび、読者の視線を一度こちらに集めるためだ。
これから新しいプロダクトのリリースノートを読むとき、ベンチマーク記事を眺めるとき、社内で「結局どれを使う?」の議論に巻き込まれたとき ── この付録を 地図 として開き直してほしい。 新機能が「実行環境」「停止条件の重心」「HITL の入れ方」「サブエージェント機構」「プロジェクト設定ファイル」のどこに刺さるのか、欄を一つ増やすつもりで眺めれば、ニュースの中身が骨格の上に乗ってくる。 表に並んだ 6 プロダクトの “癖” は来年変わるかもしれないが、比較軸そのものはもっと長く生き残る ── そう信じて、この地図を置いておく。